死亡事故
1)事故から解決までの流れ
1)葬儀
2)自賠責保険に対する被害者請求
被害者遺族は、自賠責保険会社に対して、直接、補償金を請求することができます(被害者請求)。
被害者請求をすると死亡事案では、3000万円を上限として補償金が支払われます。生活補償のためすぐにお金が必要で、最終解決を待つ余裕のないときは、被害者請求を検討してください。
3)刑事裁判への被害者参加
従来は、犯罪被害者は公判の傍聴をすることしかできませんでした。しかし、犯罪被害者保護の観点から、犯罪被害者も裁判に関与できるようになりました。
4)示談交渉または裁判により最終解決
2)弁護士に依頼するタイミング
被害者が亡くなられた場合、治療や後遺障害の問題は生じません。保険会社とすぐに示談交渉が始まることになりますので、弁護士を依頼される場合は、四十九日法要が終わるころまでには、一度、弁護士にご相談ください。
3)損害賠償金
◎葬儀関係費用(裁判基準)150万円
葬儀費用がこれを下回る場合は、実際に支出した金額。
◎死亡逸失利益(裁判基準)
逸失利益とは、事故に遭わなければ将来得られたはずの収入に対する補償です。
死亡逸失利益は、
基礎収入×(1ー生活費控除率)×就労可能年数のライプニッツ係数
の計算式によって算定します。
① 基礎収入
給与所得者は、原則として事故前の収入を基礎として算出します。専業主婦は、原則として女性労働者の全年齢平均の賃金額(賃金センサス)、年金受給者は就労の蓋然性があれば、年齢別平均賃金を基礎に算定します。
② 生活費控除率
一家の大黒柱 | 被扶養者が1人いる場合 | 40% |
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被扶養者が2人いる場合 | 30% |
扶養者の多い方の生活費控除率が低く設定されているのは、逸失利益が遺族の生活補償となっている点が配慮されたものと考えられます。
女性(主婦、独身、幼児等を含む) | 30% |
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女性は男性に比べ一般的には収入が低いため、同じ割合で控除すると女性の逸失利益が低くなってしまうので、生活費控除率を低く調整したものと考えられます。
男性(独身、幼児等を含む) | 50% |
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③ 就労可能年数によるライプニッツ係数
逸失利益は、将来得られるはずの収入を一括払いで受け取ることになるので、仮に賠償金を預けて運用したときの利息分を控除する目的で、中間利息控除係数(ライプニッツ係数)を乗じて逸失利益を算定しています。
就労可能年数は、原則として67歳までの期間で、ライプニッツ係数は、就労可能年数によって決まっています。
④ 逸失利益は、基礎収入額、生活控除率、就労可能年数の設定によって大きく金額が異なってきます。
これらについては、被害者の年齢(未成年、高齢者)、職業、年金生活者、家族構成などを総合的に考慮することになりますので、弁護士に相談することをお勧めします。
◎死亡慰謝料
死亡慰謝料とは交通事故の被害者が死亡した場合、死亡させられたことに対する慰謝料をいいます。また、被害者の遺族に対しても独自の慰謝料請求権が認められています。
死亡慰謝料についても、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準の3つの支払基準が設定されていますが、自賠責基準が最も低く、裁判基準が最も高くなっています。
保険会社は自賠責基準で交渉してきますが、安易に合意しないで裁判基準に従って請求するべきです。示談交渉がまとまらない場合は、弁護士にご相談ください。
① 自賠責基準
被害者本人の慰謝料 | 350万円 |
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遺族の慰謝料 | 請求権者は、被害者の父母、配偶者及び子 | |
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請求権者1人の場合 | 550万円 | |
請求権者2人の場合 | 650万円 | |
請求権者3人以上の場合 | 750万円 |
② 裁判所基準
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
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被害者が母親・配偶者の場合 | 2500万円 |
その他 | 2000万円~2500万円 |
裁判所基準は、死亡慰謝料の総額であり、遺族固有の慰謝料も含まれています。一応の目安を示したものなので、加害者の過失内容や事故後の対応など悪質な場合は、慰謝料増額の理由とされます。
◎遺族の損害に対する賠償金を配分する方法
① 葬儀関係費用
葬儀費用を実際に支出した遺族が受け取ります。
② 遺族固有の慰謝料
遺族固有の慰謝料は相続の対象ではないので、遺族がそれぞれの固有の慰謝料を受け取ることができます。
裁判で各遺族の慰謝料が認定されている場合は、それぞれの受取金額が明らかですが、保険会社との示談交渉により一括で支払われた場合には、遺族固有の慰謝料の内訳がわからないことがありますので、あらかじめ誰がどの程度受け取るか話し合っておく必要があります。
4)刑事関係
◎加害者の刑事手続きの流れ
① 逮捕
② 捜査機関による捜査
③ 検察官による処分決定
1)起訴 | 公判請求(通常の裁判を求める処分) 略式命令請求(罰金刑を求める処分) |
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2)不起訴処分 |
④ 刑事裁判
概ね第1回公判期日で審理が終結し、次回判決が下されます。
◎刑事記録の取り寄せ
1)民事裁判では加害者の過失は被害者が立証責任を負います。そこで、捜査機関が作成した刑事記録(実況見分調書、供述調書等)を取得して民事裁判の証拠として提出することがあります。
2)刑事裁判係属段階では、被害者は裁判所に申請して刑事記録の謄写が可能です。刑事裁判確定後は、第1審裁判をした裁判所に対応する検察庁に申請します。なお不起訴になった場合でも実況見分調書や一定の要件の下で供述調書の謄写が可能です。
◎被害者参加制度
被害者参加制度とは、一定の事件の被害者やご遺族などが刑事裁判に参加することのできる制度です。
① 対象となる犯罪
危険運転致死傷罪、自動車運転致死傷罪等。
② 対象者
①犯罪被害者、②その法定代理人、③被害者が死亡した場合や心身に重大な故障がある場合、その配偶者、直系親族、兄弟姉妹
③ 手続きの流れ
1)被害者やご遺族から、事件を担当する検察官に刑事裁判への参加について申し出ます。検察官は意見を付して裁判官に通知します。
2)裁判所は被告人または弁護人の意見を聴き、相当と判断したときは、参加が許可されます。
④ 被害者参加人の権利
1)原則として公判期日に、法廷で、検察官の隣などに着席し、裁判に出席することができます。
2)証拠調べの請求や論告・求刑などの検察官の訴訟活動に関して意見を述べたり、検察官に説明を求めることができます。
3)情状に関する証人の供述の証明力を争うために必要な事項について、証人を尋問することができます。
4)意見を述べるために必要と認められる場合に、被告人に質問することができます。
5)証拠調べが終わった後、事実や法律の適用について、法廷で意見を述べることができます。