素因減額
1 素因減額とは、被害者の既往症や身体的特徴、心因的要因が、交通事故による損害の発生や拡大に影響している場合、損害賠償額の算定にあたって減額することをいいます。
素因には心因的素因と体質的素因がありますが、今回は体質的素因について取り上げます。
2 最高裁判所は、「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情が存しないかぎり、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」と判示しました。
また、同日の別事案において最高裁は、被害者が事故前から罹患していた頸椎後縦靭帯骨化症が、治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していることが明らかな場合、損害賠償額を算定するに当たり、被害者の疾患を斟酌することができるとも判示しています。
2つの最高裁判例からいえるのは、身体的特徴については、
①疾患に該当すれば素因減額ができること、
②疾患に該当しない場合には、特段の事情がない限り素因減額の対象とならないということです。
3 しかし、身体的特徴と疾患とは、連続的な概念であって両者を区別するのは難しく、被害者の年齢に相当する平均人の身体的特徴の範囲内であるか否かを基準に検討します。
例えば、脊柱管狭窄の場合は、脊柱管の大きさには個人差があり、また加齢に伴う通常の変性も多くみられるので、直ちに疾患と評価すべきではないと考えられます。
4 示談交渉で保険会社が素因減額を主張してくることがあります。本当に素因減額されるべき事案なのかどうか、また素因減額されるにしろ減額割合がどうなるのか、損害賠償額に大きく影響しますので、弁護士によくご相談ください。